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鍼灸いちご治療院 鍼灸師 八幡太郎 執筆・監修

鍼灸いちご治療院 TEL.03-5876-8989

〒133-0051 東京都江戸川区北小岩6-35-19


腰痛になりやすい腰椎の構造

腰椎の生体力学 【鍼灸師 執筆・監修】

腰椎解剖図腰を支える腰椎の構造、機能や特性について解説しています。

また、バイオメカニクス上の問題点や、その事に端を発する変形の理由についても解かりやすく説明しています。



腰痛からの観点では腰部の筋肉は腰椎と切っても切り離せない関係にあります。生体力学の視点も交え、筋肉との有機的な関係についても解かりやすく説明しています。

このページは以下の項目で構成しています

  • 構造と特徴
    • 腰椎の可動域
    • 腰椎の構造 / 図解
  • バイオメカニクス上の問題点
    • 傾斜角による滑り落ちる力
    • 腰椎を安定させるバイオメカニクス要素
    • 腰痛につながる前弯角の問題
    • 椎間板損傷に至る力学的問題
  • 骨の変形
    • 骨棘の種類
    • 骨が変形する理由 / ヒューター・ボルクマンの法則
  • 神経の分布
    • 腰椎から分岐した神経
    • 神経の分布領域と症状の現れ方
鍼灸いちご治療院 院長・鍼灸師 八幡太郎このサイトは鍼灸いちご治療院が運営しています。

記事については医療系国家資格である鍼灸師の八幡太郎が執筆・編集・監修しています。

構造と特徴

腰椎の側面図腰椎は第1〜5までの5つの椎骨で成立しています。第5腰椎は脊椎を構成する全椎骨中最大の椎骨です。

腰では椎体に対する椎間板の厚さが大きく、頚椎や胸椎に比べ前方への屈曲可動域が大きいのが特徴です。

腰椎の可動域

第5腰椎〜仙骨間が前後方向の可動域が大きく、約20°の可動範囲を持ちます。次いで第4〜5間17°、第3〜4間15°、第2〜3間14°、第1〜2間12°と上位の腰椎ほど可動範囲が狭くなります。

前方への屈曲可動域が大きい腰椎ですが、回旋については僅かな可動域しかありません。

脊椎の中では頚椎が回旋可動域45〜50°、胸椎が35〜40°の比較的広い可動範囲を持つのに対し、腰椎の回旋可動域は5つ合わせても僅か5〜12°ほどです。その理由は椎骨1つ1つの椎間関節が頚椎や胸椎とは形状が異なるためです。

腰椎の構造 / 図解

椎骨は第1、2頚椎を除き基本的な形状は下左の図で示した通りです。腰椎立体図腰椎断面図
腰椎側面図上関節突起と下関節突起が接合して椎間関節となります。頚椎と胸椎ではこの椎間関節の角度が約45°ほどであるのに対し、腰椎ではほぼ直立する形状になっています。

腰椎の椎間関節は、下位腰椎の上関節突起の間に、上位の腰椎の下関節突起が左右から挟まれるような形状です。
腰椎が持つ構造的特徴は、胸椎や頚椎と違い椎間関節がほぼ垂直に左右から挟んでいることです。この構造的特徴が腰部の回旋可動域を小さくしています。

なお、回旋可動域が1椎体当たり2°程度しかない腰椎に過剰な回旋をかけ続けていると、少年期などには疲労骨折を起こし
腰椎分離症・分離すべり症を起こす可能性があります。

少年期は椎骨の強度が十分でないため、過度な回旋負荷の継続は禁物です。具体的には勢いをつけ過ぎたバットのスイングがこれにあたります。

バイオメカニクス上の問題点

脊椎解剖図人類は直立二足歩行を獲得する過程で、行動に伴う重力の負荷を軽減するために背骨を湾曲させることで対応しました。

重力の負荷から解放される宇宙飛行士では、脊柱の長さが最大7cm伸びるとの報告もあります。

脊柱への圧力が減圧されることで脊椎の湾曲が緩くなる事と、椎間板の高さが増すためです。

傾斜角による滑り落ちる力

腰椎の角度頚椎は前弯、胸椎は後弯、腰椎では前弯しています。前弯に伴い腰部では腰椎5番〜仙骨間では約35度の傾斜角度がついています。

この傾斜角が問題で、立位では常に滑り落ちようとする力が働いています。腰椎すべり症が発症する背景は、この傾斜角の個人差も問題になります。


滑り落ちる力の図
滑り落ちようとする力は腰の弯曲度によって違い、平均的には体重の約1/2の負荷が掛かっています。

腰椎の前方すべりを防ぐ機構が人体には存在します。次の項目で解説する腹腔内圧、後部靭帯系といった一連の安定化機構です。

腰椎を安定させるバイオメカニクス要素

力学的に不安定な状態にある腰椎を機能不全に陥らせないためのバイオメカニクスのシステムが腹腔内圧と後部靭帯系、そしてインナーマッスル系です。

かつては腹腔内圧理論のみで腰部の安定性について説明されていましたが、現実には腹腔内圧のみでは腰部を安定させることは出来ず、後部靭帯系とインナーマッスル系がそれを補っています。

腹腔内圧の構成要素

胸腰筋膜解剖図腹腔内圧は概ね以下の構成要素で1つの機能体となります。腰には肋骨のような骨性基盤がないため、腹腔内圧が大きな役割を果たします。

下記の筋肉群が協調して働くことで腹腔の内圧が高まります。

腹横筋
多裂筋
脊柱起立筋
腹直筋
横隔膜
骨盤底筋群

腹腔内圧の模式図

腹腔内圧の模式図腹部及び腰部に存在する体幹部の筋肉群が同時に機能することで、腹腔が外への膨張しようとする力を周囲から抑え込み内圧を高めます。

腹部に擬似的な張りつめた風船を抱え込んでいる状態となり、横隔膜を上方へ引き上げ、骨盤底を下方に引き下げる力が働いています。

骨性基盤を持たない体幹部を支える要素の1は、この腹腔内圧によるものです。

後部靭帯系の模式図

後部靭帯系模式図腰部は体幹部の筋肉群が作り出す腹腔内圧のみによって支えられている訳ではありません。

後部靭帯系は棘上靭帯、棘間靭帯、後縦靭帯と胸腰筋膜や椎間関節包から成り立ちます。

床から荷物を持ち上げるときなど、前屈姿勢になった時にその働きが最も顕著になります。



後部靭帯系のメカニズム

また、後部靭帯系は靭帯のみの存在によって機能している訳ではありません。

大腿裏面の筋肉の引っ張りによって、体幹部をクレーンのように支え機能させています。

筋力だけでは腰の安定性を得ることは出来ず、後部靭帯系が存在しなければ我々は30キロの物体すら持ち上げることはできません。それを可能にし、安定性をもたらしている要素の1つが後部靭帯系です。
他、腰を支える重要な構成要素にアウターマッスル・インナーマッスルの違いによる筋肉系の働きがあります。これは、腹腔内圧に寄与する事とは別の働きです。

筋肉系については、一連のバイオメカニクス要素の解説の後、最後の項目で説明します。

腰痛につながる前弯角の問題

人類が直立二足歩行を獲得したことにより生じた、腰の前弯についての解説です。前方に大きく弯曲している事と、腰椎独特の形態が時には腰痛につながることがあります。
腰椎前弯角図
第1腰椎上面と仙骨上面の延長線のラインから導き出される腰椎前弯角と呼ばれるものがあります。

50〜60°の角度が理想的とされ、この数値よりも大きければ前弯亢進、小さければ湾曲が緩いフラットバックとされます。



腰椎の前弯角は腰痛と密接な関係があります。前弯が亢進した姿勢の継続は椎間関節に過負荷が生じます。また、フラットバック姿勢の継続は椎間板への負担を増加させます。

椎間板損傷に至る力学的問題

下部腰椎には20〜35°の傾斜角がついていること、前項で述べた椎間関節面の角度が垂直に近いことが腰痛発症の原因になります。
振り向きの回旋力模式図
人が体をひねり後ろを振り向く動作の時には、椎体のやや後方が運動の回転軸になります。

この時、椎間板の線維輪に負荷が掛かります。腰椎1椎体当たり3.5°を超える回旋力が生じると、椎間板線維に微細な損傷が起こります。

関節面が圧着した様子
回転軸を中心に回旋していくと、上位腰椎と下位腰椎の関節面は僅か1〜2°の回旋で圧着され、その椎骨は回旋の限界を迎えます。

圧着した時点で関節軟骨の緩衝作用が起こります。

回旋に伴う支点、力点、作用点の図
回旋力が大きい場合、椎間関節面には衝撃荷重が掛かり、痛みを感じる侵害受容器を刺激します。

支点から作用点までの距離よりも、力点までの距離が大きいためテコの作用で椎間関節面への負荷は過大なものとなります。

支点と作用点移動の様子
関節軟骨の緩衝限界を超えると支点と作用点が逆転し、支点が椎間関節となり作用点が椎間板に移動します。

椎間板には初期の回旋力による負荷に加え、後外側方向への引き裂こうとする剪断力が加わります。


繰り返しこのような負荷が掛かっていると、椎間板線維に微細な損傷を与え続けることにことになり、強度が著しく低下します。そして、ある時点で12°を超える回旋力が発生した時に、椎間板はその構造を維持することが出来ず完全に破綻します。
私たちの日常生活は、継続的な外力を腰に与え続けることの繰り返しです。問題は特定の部位のみに負荷が掛かり続けることにあり、それが腰痛の原因になります。

それを防ぐためには腰の軟部組織が柔軟であることが必要です。腰が柔軟性を欠いている事で、隣接部位に負荷を逃がす事ができず、腰のみで外力を受け止めてしまっている事がそもそもの腰痛発症の素因です。

欲を言えば胸椎部や臀部、股関節も柔軟であるとなお良いでしょう。柔軟な柳の枝は折れません。人体にもその事が当てはまります。柔軟な腰と良い姿勢が腰痛を防いでくれます。

骨の変形

前項までに腰のバイオメカニクス上の問題点について解説しましたが、それらの要素に長年にわたり負荷が掛かり続けると、腰椎に骨棘(こつきょく)と呼ばれる骨の変形が起きてきます。

骨棘の種類

下の図は、骨の変形が起きた骨棘という状態を種類ごとに書き分けた図です。背骨の変形も様々で疾患ごとにその形状に違いがあります。

骨棘の種類@の骨の変形は加齢に伴う骨棘で最も一般的な形状です。

Aのタイプの変形は脊椎不安定症にみられる骨棘でトラクションスピアと呼ばれます。

Bの骨棘は特殊な形で、強直性脊椎骨増殖症という疾患でみられる骨の変形です。

Cは変形の終末像です。架橋骨棘と呼ばれ、背骨がつながってしまった状態です。



以上のような骨棘が腰椎に発生した場合にも、大きさや形状、部位によっては腰痛の原因になります。

骨が変形する理由 / ヒューター・ボルクマンの法則

ヒューター・ボルクマンの法則解説図不良姿勢の継続で背骨に異常な湾曲が発生すると、その事による背骨を引っ張る張力と圧縮力により、骨の形状とそれに隣接する軟骨にも変化が起きます。

「弯曲の引っ張られる側では骨が増殖し、圧迫を受ける側では骨再生が抑制される。そして椎骨の形態変化に伴い、その状態は永続的なものとなる。」

この現象をヒューター・ボルクマンの法則と呼びます。


この事を裏付ける研究があり、1991年に岡田医学博士が、1995年には福山医学博士により発表されています。

福山博士の研究では、ウサギの背中を後方に強制的に反らせるという方法で、人為的に上図のような圧縮力と張力を背骨に発生させ、6か月以上にわたり経過観察しています。

結果、約6か月で張力が掛かり続けた靭帯が骨化し始めたそうです。つまり、不良姿勢の継続は部分的な骨の変形に止まらず、脊柱管狭窄症や後縦靭帯骨化症に発展しかねないという事です。
骨の変形を防ぐには、日常的に良い姿勢を心掛ける必要があります。既に不良姿勢が身について自力で修正する事が困難なら、何らかの治療やトレーニングが必要です。

神経の分布

背骨の中を脊髄が走行しているのはご存知かと思いますが、脊髄は腰椎1〜2番の高さで終わり、腰の部分に走行しているのは中枢神経の脊髄ではなく、末梢神経の馬尾神経と呼ばれる神経が脊柱管の中を走行しています。

腰椎から分岐した神経

腰の神経解剖図腰部の馬尾神経から分かれ末梢に向かう神経根部は左図のような形態になっています。

腰椎1番の下から出る神経をL1神経、腰椎5番の下から出る神経をL5神経というように呼びます。

成長過程で背骨の発育スピードに脊髄の成長が追いつかないために成人では、脊髄は腰椎1〜2番の高位までとなります。

英語では背骨は頚椎をCervical ( サービカル )、胸椎をThoracic ( ソラシック )、腰椎をLumbar ( ランバー )、仙骨をSacrum ( セイクラム )と表記します。

それぞれの頭文字のアルファベットをとって、頚椎はC1〜7,胸椎はT1〜12と呼び表し、腰椎ではL1〜5という呼び方をします。

神経は末梢で痛み、温度、圧力、体の位置、筋肉からの感覚などを感じ取り、筋肉への運動指令を伝達しています。また、鋭い物を踏んだ時などの反射運動をさせる役割も担っています。

反射運動は我々にとってとても大切な働きで末梢神経→脊髄→末梢神経というルートで伝わり、高次中枢の脳を介さずに起こる現象です。脳まで情報を伝え、その情報を処理してから命令を下していたのでは緊急時に対応できないので、反射運動が起こるメカニズムが脊髄には備わっています。

ところが、先に示した神経根部などで何らかの圧迫などを受けると、反射経路の途中で信号が遮断されてしまうため反射運動に支障をきたします。

神経の分布領域と症状の現れ方

デルマトーム図右の図をデルマトーム図と言います。最も一般的な形式を描画しました。

それぞれの神経根部からの末梢の神経が、痛みなどの感覚を支配している領域です。

神経根部で障害を受けると、特異的に症状が現れる部位があります。


例えば、腰に問題のない状態では、膝のお皿の下の腱を叩くと下腿がピョンと跳ね上がる現象が起きます。これを膝蓋腱反射と言います。

椎間板ヘルニア腰椎変性すべり症などでL4神経根が障害を受けると、この膝蓋腱反射が減弱または消失します。そして青色のエリアに痛みや痺れ、感覚の鈍磨が起こってきます。

S1神経障害では、太もも裏面から下腿裏面外側の黄緑色のエリアに痛み、痺れ、感覚鈍磨が生じることがあります。この場合にはアキレス腱の腱反射が減弱または消失します。

神経は通常、圧迫されただけでは痛みは起きず、痺れや感覚鈍磨という形で症状が現れます。デルマトーム図で示したエリアに痺れや感覚鈍磨だけでなく、痛みの症状も表れた場合には神経根部や走行ルート上での炎症が発生している可能性があります。


神経の働きや痛みや痺れ、様々な神経現象については
痛みのメカニズムのページとそこから分岐する専門ページを設けています。参考にしてみてください。

腰椎の生体力学 / まとめ

腰痛を発症し、X線やMRI画像診断で腰椎やその周囲の組織に変形・変性がみられた場合、痛みを起こしている目の前の原因は、確かにそれらの形態の変化によるものかもしれません。

しかし、その変化を起こした根本的な原因は、腰部の筋肉の機能不全に端を発した不良姿勢にあります。不良姿勢の継続が、構造的な特徴故のバイオメカニクス上の問題点を拡大してしまった結果、腰痛を引き起こしています。

腰椎と腰痛の関係を考えた場合、それを解決するためには体幹筋の機能不全を解消しニュートラルな状態を取り戻し、アライメントの改善を図る必要があります。

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