腰痛の漢方 【鍼灸師が執筆・監修】
腰痛の時、効果的に作用する漢方薬について解説しています。
腰が痛いときには、ロキソニンやボルタレンなどの現代医学的な薬で対処することが一般的ですが、東洋医学にも痛みに有効な生薬がいくつかあります。
20世紀以降、現代医学は高度な発展を遂げてきました。痛みを緩和させる物質であるアスピリンの発見は、恐怖の対象であった【痛み】をコントロール可能なものにし、今日ではより強力な、ロキソニンやリリカといった鎮痛剤も身近なものとなりました。
現代医学的な薬は効果もシャープなものであり、人類に多くの福音をもたらした事には異論がありません。しかし、それら科学的に合成された薬剤でも、十分な効果が望めない症状も存在します。
現代医学は素晴らしいものです。その素晴らしい医術とは別系統で、経験や知識を積み重ねてきた医学・医術が漢方・東洋医学です。
このページは以下の項目で、腰の痛みを緩和させる漢方薬について解説しています。
- 腰の痛みに効果的な8つの漢方薬
- 桂枝加苓朮附湯 (けいしかりょうじゅつぶとう)
- 牛車腎気丸 (ごしゃじんきがん)
- 桂姜棗草黄辛附湯 (けいきょうそうそうおうしんぶとう)
- 苓姜朮甘湯 (りょうきょうじゅつかんとう)
- 八味地黄丸 (はちみじおうがん)
- 桂枝茯苓丸 (けいしぶくりょうがん)
- 芍薬甘草湯 (しゃくやくかんぞうとう)
- 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかしゅゆしょうきょうとう)
- 漢方の基礎知識
- 生薬の性質
- 鎮痛作用がある7つの生薬
- 桂枝 (けいし)
- 地黄 (じおう)
- 芍薬 (しゃくやく)
- 当帰 (とうき)
- 防風 (ぼうふう)
- 麻黄 (まおう)
- 薏苡仁 (よくいにん)
- 腰痛の漢方 / まとめ
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腰に痛みが起こった時、温めるべきか、冷やすべきなのか判断に迷う事もあるかと思います。
【腰痛と湿布・薬について】のページで、痛みが起こった時の判断の基準などについて解説しています。
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記事については医療系国家資格である鍼灸師の八幡太郎が執筆・編集・監修しています。
ここから先の項目で腰の痛みを効果的に緩和させ易くする、いくつかの漢方薬をご紹介しますが、服用にあたっては医師・薬剤師に必ずご相談ください。
そもそも漢方薬と現代医学的な薬では、その得意とする領域が異なります。
例えば、更年期障害や肩こりなどは東洋医学が得意とする領域であり、現代医学に一歩先んじています。しかし、外科的疾患や、ウィルスや細菌などの感染症には対しては、現代医学的な薬の方が即効的に効果を発揮します。
つまり、それぞれ得意とする領域が異なるため、このページの情報をもとに漢方薬を検討するにあたっては自己判断せず、必ず医師や薬剤師に相談してください。なぜなら、あなたの腰は現代医学が適している状態にあるかもしれないからです。
桂枝加苓朮附湯 (けいしかりょうじゅつぶとう)
汗をよくかく傾向にあるが、手足が冷える自覚がある場合の腰の痛み。この状態を太陰の虚証と言います。
関節性の腰の痛みではよく処方される薬です。他、椎間板ヘルニア、むち打ち症、骨粗鬆症などの時にも出される薬です。
牛車腎気丸 (ごしゃじんきがん)
腰から下に軽度の脱力感があり、下半身に浮腫みを感じている場合の腰の痛み。太陰の虚証
この薬の鎮痛作用は西洋医学的にもはっきりしていて、Kオピオイド受容体と呼ばれる身体の鎮痛機構の働きに作用します。上記の自覚症状を伴う、神経性の痛みに有効とされます。
桂姜棗草黄辛附湯 (けいきょうそうそうおうしんぶとう)
お腹の鳩尾(みぞおち)と臍の中間付近を押してみて、その付近に圧痛と抵抗感があるばあいで、お腹の力がやや低下している場合の腰の痛み。太陰の虚証
椎間板ヘルニアの坐骨神経痛でしばしば著効するとされます。
苓姜朮甘湯 (りょうきょうじゅつかんとう)
色の薄い尿が回数多く出る状態にあり、腰が水中にいるように冷たく、重く感じ痛むという場合。少陽の虚証
冷えのある腰痛、坐骨神経痛などで出される薬です。
八味地黄丸 (はちみじおうがん)
下腹部や腰に力がなく、膝がガクガクしたり、転びやすかったりする場合の腰の痛み。太陰の虚証
強弱な体質の人や、年配者の腰に痛みなどに出される薬です。
桂枝茯苓丸 (けいしぶくりょうがん)
月経異常、閉経またはそれに伴う不正出血などの瘀血(おけつ)といった女性器にまつわる症状に加え、腰痛などが伴っている場合。少陽の実証
女性の腰痛に出されることがある薬です。
芍薬甘草湯 (しゃくやくかんぞうとう)
腰痛に加え、下肢や腹部の筋肉が攣る傾向にある場合。少陽の虚実間
筋肉の引き攣れに著効する薬で、アスリートにもよく使われる薬です。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかしゅゆしょうきょうとう)
身体の内部や腰から下の寒冷症状があり、疲れやすい状態にあり四肢の痛みや身体痛、腰の痛みなどの場合。少陽の虚証
冷えを感じていて、身体虚弱な人の腰痛に出される薬です。
腰の痛みの原因には椎間板ヘルニア、変形性脊椎症、骨粗鬆症など様々な原因が考えられますが、漢方薬で対処する場合には、そのような疾患ごとに服用する薬が決まっている訳ではなく、自覚的な症状や、他覚的な情報を整理した結果得られる、漢方的診断によって薬方が決まります。
服用にあたっては自己判断せず、医師・薬剤師への相談してください。
日本に最初に漢方薬がもたらされたのは奈良時代よりも古く、古墳時代の29代・欽明天皇の時代とされています。その後、遣隋使・遣唐使の時代に医師や僧侶が多くの医術を持ち帰りました。
当時の医術は貴族社会だけに限定されたものであり、一般に広まりだしたのは時代が下った室町時代以降のことになります。
漢方は鍼灸と並び、東洋医学の一翼を担うものです。【東洋医学】などという曖昧な概念は、そもそも存在しないのだとする声も一部にはありますが、このページでは現代医学・西洋医学に対する対義語として東洋医学という言葉を用いて解説します。
東洋医学での疾病の捉え方と治法
東洋医学では、疾病を陰陽のアンバランス(偏衰や偏勝)が起きている状態と捉えています。
そのアンバランスを正し健やかな状態に導くために、脈診、舌診、腹診、問診などでその人の体内の状態を観察し、陰陽の虚実を推定します。
漢方薬の原料になる生薬には、それぞれ陰陽、温寒、滋潤、収斂などの性質があり、その様々な性質を持つ生薬を組み合わせたのが漢方薬です。
そして、その人が現在置かれている状態、例えば陽盛陰虚といった状態にあれば寒涼性の薬方を用い、陽虚陰盛といった状態ならば温熱性の薬方で陽を補うというように、病者に適合した薬方を用いて、症状を軽減し健康な状態に回復させます。
【証】の確定
病院などで漢方薬を処方されるとき、その症状に対して処方されることが一般的になっています。
しかし、漢方薬の力を最大限に引き出すには、証 (しょう) を確定する必要があります。
【証】とは東洋医学独特の概念で、その人が今・現在置かれている体の中の内部情報を指します。この【証】を定め、薬方を決定すること弁証施治と言います。
脈、舌、お腹のなどの他覚的情報、詳細な問診から得られる病者の自覚的情報、これらの情報をもとに陰陽の亢進や偏衰を推定し、『この人は
桂枝加苓朮附湯の証である。』というように薬方が決定します。
この【証】の概念こそが、現代西洋医学との最も顕著な違いです。現代医学では病名が決定すると、処方される薬の容量に違いはあっても、病名が同じならば出される薬はほぼ同じものです。
ところが、東洋医学では個人差に重きを置くため、同じ腰痛であってもAさんとBさんでは全く性質の異なる別の薬が出されたりします。
さらに、時々刻々と変化する患者さんの身体内部の状態に合わせ、【証】も変化し薬方も変わります。つまり、同じ患者さんであっても状況の変化に合わせ、2週間前と現在では全く違う薬が出されたりします。このように時間の概念を薬方に反映させるのも、漢方の大きな特徴です。
漢方薬は本来【証】を確定してから用いるのが望ましいのですが、その症状に合わせ【対症療法】的な使い方をしても効果が望めるルーズな面と、厳密に【証】を確定しなければ、全く効果が現れない面があります。
例えばルーズな面でいえば、脹脛のこむら返りなどには【芍薬甘草湯】が著効し、陸上競技のアスリートなどによく使われています。半面、腰痛などで漢方薬を処方されても、『
いまいち効果が実感できなかった。』というような場合は、【証】の確定が曖昧だったために、薬が言うことを聞いてくれず、厳密な面が顔を出したと言えます。
1つ1つの生薬には様々な性質があります。その生薬の性質に合わせ、薬方を決定する指針となるのが古代中国で編纂された、漢方のバイブルである【傷寒論・しょうかんろん】です。東洋医学もう一方の雄、鍼灸は【黄帝内経素問・霊枢】を古典的バイブルとしています。
日本の漢方は、この傷寒論による薬方を深く掘り下げ、より磨きをかけることで現在に至っています。
薬物の性質
生薬は温める性質のもの、冷やす性質のものに大きく大別されます。
更にそれを細分化し、熱性、温性、涼性、寒性に分類され、これを生薬の四気と呼びます。
生薬の運用にあたっては、この熱、温、涼、寒の四気が考慮され、それぞれの薬方に厳密な割合で配合されます。
冷えを基礎とする腰痛には熱性、温性の生薬を配合している必要があり、急性期の炎症状態にあれば涼性、寒性の薬物が効果を発揮します。逆の用い方をすれば、当然症状は悪化します。
そして漢方薬の特性として、一般に生薬の配合がより少ないものほど効果がシャープに出るとされています。生薬一種類で出来上がっている薬を単行(たんこう)または単味(たんみ)と言います。例えば甘草湯、独参湯などがこれにあたります。
注意が必要な生薬
『 漢方薬は生薬だから安全 』そのような考えは危険です。現代西洋医学、漢方薬いずれにしても『 薬は毒物でもあるのだ 』という認識を持つことが必要です。使用にあたっては医師・薬剤師へ相談してください。
生薬には毒性の強いものや、激しい性質を持つ生薬が存在します。薬の中に下記の生薬が配合されている場合には、十分な注意が必要です。
注意が必要な生薬
- 巴豆 (はず)・熱帯性トウダイグサ科ハズの種子
- 虻虫 (ぼうちゅう)・アブ科キイロアブの全体
- 枳実 (きじつ)・中国産ミカン科の未熟果
- 水蛭 (すいしつ)・水蛭科チスイビルの乾燥体
- 莪朮 (がじゅつ)・ショウガ科ガジュツの根茎
- 桃仁 (とうにん)・バラ科モモの子仁
- 紅花 (こうか)・キク科ベニバナの花弁
- 大黄 (だいおう)・中国産タデ科の根茎
- 大戟 (だいげき)・トウダイグサ科タカトウダイの根
- 附子 (ぶし)・キンポウゲ科トリカブトの根
- 肉桂 (にくけい)・クスノキ科植物の枝の皮
- 半夏 (はんげ)・テンナンショウ科からすびしゃくの塊茎
- 滑石 (かっせき)・含水珪酸マグネシウム
上記以外にも毒性や激しい性質の生薬はいくつも存在しますが、代表的なものをピックアップしました。
生薬と言っても薬は薬です。【生薬は安全】というのは誤った考えです。使用にあたっては必ず医師・薬剤師に相談してください。
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この項目では、漢方薬の原料となる生薬のうち、鎮痛作用を持つ代表的な生薬をご紹介します。
桂枝 (けいし)
中国南方産・クスノキ科植物の枝の皮、日本産・肉桂(にくけい)の根皮
作用
鎮痛、発汗、解熱、興奮作用
地黄 (じおう)
ゴマノハグサ科アカヤジオウの根
作用
鎮痛、滋養強壮、補血
芍薬 (しゃくやく)
キンポウゲ科シャクヤクの根
作用
鎮痛作用の他、筋肉の拘縮・攣縮の緩解
当帰 (とうき)
セリ科トウキの根
作用
鎮痛、駆瘀血、強壮
防風 (ぼうふう)
セリ科防風の根
作用
鎮痛、発汗、解熱、解毒
麻黄 (まおう)
マオウ科マオウの地上部
作用
関節性疼痛の鎮痛、鎮咳、発汗
薏苡仁 (よくいにん)
イネ科ハトムギの子仁
作用
鎮痛、消炎、利尿、排膿
腰痛の漢方 / まとめ
腰の痛みに対し現代・西洋医学的な薬を服用しても効果が感じられない場合、漢方薬が時に著効する場合があります。そのためには対症療法的な服用の仕方ではなく、その人の体質や現在の病勢に合わせた証を定め、薬方を決定する漢方的診断が必要です。
ドラッグストアなどでも漢方薬を求めることは出来ますが、望ましくは漢方専門薬局で相談されることをお勧めします。
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