腰痛を予防するための12のストレッチ法
腰痛のストレッチ法 【鍼灸師が執筆・監修】
腰痛のストレッチ法の理論や根拠、様々なアプローチ法について詳しく解説しています。
安全で正しい運動療法を日常生活に取り入れると、多くの場合には症状が改善します。疾患によってはストレッチを行うと症状が悪化してしまう疾患もあります。 エクササイズを行う前に、自分の腰の状態がストレッチに適しているのか否か見極める必要があります。このページでは、安全にエクササイズを行うために、見極めの基準・具体的なストレッチ法などについて、大きく6つの項目で解説しています。
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記事については医療系国家資格である鍼灸師の八幡太郎が執筆・編集・監修しています。
関節の可動域
人体にはおよそ360の関節が存在します。そして、それぞれの関節は概ね可動範囲が決まっています。
ストレッチを含むエクササイズを行い関節の可動範囲を広げることは症状軽減につながります。
例えば、1つの腰椎は2°程しか回旋可動域を持っていません。腰椎5つ合わせても最大7〜15°程度の回旋可動域しか持っていません。
これに対し胸椎は、胸椎1つあたり約8°の回旋可動域を持っていて、胸椎全ての回旋可動域を合わせると30〜35°の回旋可動域になります。
以上の事が意味するのは、あなたが後ろを大きく振り向くとき腰を捻って振り向いている訳ではなく、胸椎の部分を捻って振り向いているという事です。
腰に負担が掛る理由
胸椎の運動性が低下し可動範囲が狭くなっていると、そのしわ寄せを腰椎が補い過剰な負担がかかる事になります。
腰椎は1つあたり3.5°の回旋可動域を超えると、椎間板はその負荷に耐えきれず引き裂かれ破たんします。
腰痛をお持ちの方は腰の部分だけでなく、その周辺関節である胸椎や股関節の可動性が低下している傾向があります。その結果として、腰に過剰な負担がかかり症状を引き起こしている可能性があります。
腰の負担を軽減するためには
腰に負担を掛けないためには、まず周辺関節である胸椎や股関節の可動性を高くする必要がありますし、場合によって脚部まで可動性を高くする必要があります。
関節には関節を包む関節包(かんせつほう)というものがあり、その外側を靭帯が補強しています。さらに外側に筋肉があり、表面は皮膚に包まれています。
これらの軟部組織が硬く短縮してしまうと関節の可動域が小さくなります。硬く縮まった軟部組織を伸ばし、関節の可動域を広げることは症状の軽減や再発防止につながります。
ストレッチの前後では筋肉中の毛細血管断面積、1回心拍当たりの血流量、1分当たりの血流量が1.8〜3倍に拡大し血液循環の改善がみられます。
その効果として、短縮した筋肉は平均25%柔軟性が増すと言われます。これが目的と根拠となります。
また、日常的に継続することで柔軟性を獲得した筋肉や靭帯などの軟部組織と神経の活動性が、痛みを伝える神経の働きを上回るようになり、症状が起こりにくくなります。
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基本的に、硬くなった身体を柔軟にするのは良い事なのですが、誰でも等しく運動療法を行っても良い訳ではありません。
腰に痛みを引き起こす疾患によっては、エクササイズを行うことで症状が悪化する疾患があります。
自分の症状がどの疾患に当たるのか、見極める必要があります。
ストレッチがNGな人
あなたが治療の一環で牽引治療を受けて、その時は良いが後で症状が悪化した経験があるようでしたら、あなたが今取り組むべきセルフケアは腰痛ストレッチではありません。
上記のような事が当てはまるようでしたら、あなたの腰痛は脊椎不安定症や腰椎変性すべり症、腰椎分離症・分離すべり症などである可能性があります。
これらの疾患は腰椎の不安定性が基礎的な要素になっています。背骨の不安定性を構造的な問題として抱えている方がストレッチを行うと、さらに腰椎を不安定にすることになり、ただただ症状を悪化させます。ストレッチは禁忌です。
これらの方に必要なのは治療であり、腰の安定性を確保するための個人に合わせたトレーニングメニューです。
最低限の注意点
ここまでに挙げたことが当てはまらない方でも、急性期は2~3日を目安として安静が必要な場合もあります。また、痛みが激しい場合にも指導者なしの運動療法は控えた方が良いでしょう。
本来、腰の症状を改善するための運動療法は、強い痛みを解消するためのものではありません。
対象となる方は日常生活に支障がない程度の症状の方や、元々強い症状があったが何らかの治療手段で相当程度まで痛みが改善している方、これらの方が対象になります。
いま現在、かなりの程度の腰痛でお困りの場合は第一選択は何らかの治療であり、エクササイズではありません。
まず、治療によって相当程度まで症状を改善し、身体をニュートラルな状態に戻す必要があります。こじれた腰痛は要因が複雑に絡んでいるため、自力での運動療法では改善が困難です。ストレッチを含む運動療法に取り組むには、その見極めが必要です。
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この項目ではいくつかのストレッチ法の紹介をしています。筋肉や靭帯などの軟部組織を伸ばす方法は1つではありません。自分自身の症状の程度、体調、体力を加味し選択するのが良いでしょう。
バリスティック法
バリスティック法はスポーツ競技前などに行うエクササイズです。
対象となる筋肉に勢いをつけて負荷をかける方法です。この方法を行うと筋肉の反応時間が早くなりパフォーマンスがアップします。
反面、勢いをつけて筋肉や靭帯に負荷がかかるために、筋緊張が高まり障害が起こりやすくなるリスクがあります。
競技者などの問題がない基礎体力のある人が行う方法であり、腰痛を改善させるためには不向きです。
スタティック法
この方法はが一般的にストレッチとして認識されている方法です。運動療法の入り方としてはオーソドックスでベターであると思います。
勢いをつけずにゆっくりと筋肉や靭帯を伸ばしていく手法です。このことで筋肉の緊張は抑制され、関節の可動域が広がります。
可動域いっぱいのところで筋肉や腱の痛みを感じ出しますが、ここから少しずつ可動域を広げることで伸長効果が生まれます。
運動療法には向くのですが、筋緊張が低下するためパフォーマンスは低下します。そのため、競技者には不向きです。
PNF法
ホールド・ストレッチ法とも呼ばれます。勢いをつけずに静かに徐々に対象とする筋肉に負荷をかけていきます。ここまでは上記のスタティック法と同様です。
ここから先に違いがあります。対象とする筋肉を徐々に伸ばしていくと限界感が訪れますが、その時対象筋を自らの意思で数秒間収縮させます。
その後、上記のスタティック法で対象筋をゆっくり伸ばします。
筋肉は一定以上の収縮力を働かせると自らを守るために弛緩する反応が現れます。この原理を応用したのがこの手法です。
コツがつかめると筋肉を十分弛緩させられるので、腰の状態を改善させやすいでしょう。
ダイナミック・ストレッチ法
筋肉には主動作筋、協調筋、拮抗筋という区分けをすることがあります。例えば、上腕のいわゆる力こぶを作る上腕二頭筋を主動作筋とした場合、腕の裏側の上腕三頭筋が拮抗筋ということになります。
反対もしかりで、上腕三頭筋の拮抗筋は上腕二頭筋です。
この手法では、対象とする筋肉の拮抗筋を瞬間的に数回、短時間のうちに収縮させます。このような事を行うと神経反射で対象となる筋肉に弛緩が起こります。
効果の高い手法ではありますが、筋肉の作用する方向を熟知していなければならないため、指導者の下で行う方法になります。
私の個人的意見では、この手法よりもPNF法の方が筋弛緩作用が高いように考えています。
IDストレッチ法
対象とする筋肉を1つに絞り、特異的にその筋肉や靭帯を伸ばす手法です。
この方法は筋肉の走行方向、付着部、それらのランドマークとなる骨の突出部の触診技術。解剖学の知識や痛みや筋緊張に関する神経生理学を熟知している必要があり、一般的なセルフケアに向くとは言えません。
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ストレッチは、腰痛がある誰もが気軽にやっても良いというものではありません。
疾患によっては、ストレッチを行うと症状が悪化するものもあります。
実践前には、この項目を読まれることをお勧めします。
ストレッチを実践する前の注意点
- 行う際は自然な呼吸を心掛けてください。ストレッチ中に呼吸を止めると血圧が上昇します。
- 痛みの程度が強い急性期には行わないでください。
- 体が冷えている時に無理に筋肉を伸ばすことは控えてください。回復期で症状が残っている時は、入浴後などが負担なく行えます。
- 医師から脊椎不安定症、腰椎変性すべり症、脊椎分離症・分離すべり症などの診断を受けている方は、十分な筋力が構築されるまでストレッチは控えてください。症状を悪化させる可能性が高まります。
本来、腰痛を改善させるためのストレッチや筋肉トレーニングに万人共通のメニューは存在しません。
…それは、なぜか?
- 腰椎の前弯の程度は浅いのか、深いのか?
- 骨盤は前傾しているのか、後傾しているのか?
- どの部分の筋肉が機能低下し、どの筋肉が機能亢進しているのか?または短縮しているのか?
- 腰痛を招いている原因が構造的なものなのか否か?
- 年齢は? 性別は? 職業は?
以上のように、運動療法を行う上での個々人の条件が千差万別であるために画一的なプログラムでは効果を発現しにくいのです。
姿勢の比較
ここでは、骨盤が前傾し腰椎の湾曲が強くなっている姿勢と、骨盤が起き上がり腰椎の湾曲が浅くなっているフラットバック姿勢を比較します。
腰椎前弯姿勢 (左図)
骨盤が前傾位にあると多くの場合、腰椎の前方への湾曲が大きくなります。この姿位では腰椎を前方から支えるA大腰筋と呼ばれる筋肉と、いわゆる背筋と呼ばれる@脊柱起立筋が、機能亢進・短縮傾向にあります。また同時に太もも前面のB大腿直筋も機能亢進・短縮傾向にあります。
そして、この腰椎前弯姿勢ではC腹直筋とD太もも裏面のハムストリングスと呼ばれる筋群が弛緩・伸長傾向にあり力が足りない状態にあります。
フラットバック姿勢 (右図)
骨盤後傾位では腰椎が平らなフラットバック(右図)、またはスウェイバックと呼ばれる状態になります。この姿位では太もも裏面の筋群である@ハムストリングスとA腹直筋などの腹部の筋群が機能亢進・短縮傾向にあります。
そして、背部のB脊柱起立筋、インナーマッスルのC大腰筋、D太もも前面の筋群が弛緩・伸長傾向にあり力が足りない状態です。
以上のように骨盤の傾きの前傾・後傾だけをピックアップしても腰部や周辺の筋肉の状態には大きな違いが起きています。
実践前のガイダンスの結論
姿勢の状態から発生する問題だけでも個々人によって大きな差があり、アプローチしなければならない筋肉、筋肉トレーニングしなければならない機能低下した筋肉が人によって違う…という事です。
本来、症状改善のための腰痛ストレッチや筋肉トレーニングは、対象者の骨盤の状態、腰椎の状態、原因となっている疾患、年齢、性別、職業などを加味し個人に合わせたプログラムが必要になります。
しかし現実には、身近に相談できる良い専門家が存在しなかったりするため、インターネット上の情報を頼りに手探りでセルフケアに取り組まれている方が多いのではないでしょうか?
そのような方々のために、次の項目で自分で対策をとるための方法を解説しています。
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具体的なストレッチの実践に入る前に、以下のことを御理解の上、先へお進みください。
運動療法は本来、運動療法6原則の1つ、個別性の原則を念頭にその人に合わせたプログラムが必要になります。
つまり、あなたの骨盤の傾きの状態、腰椎の湾曲、機能低下している筋肉、機能亢進している筋肉、原因となっている疾患、年齢、性別、職業、このような個人的な情報を統合して症状改善のためのプログラムを構成する必要があります。
ここから先のプログラムは、あなたの身体の状態を考慮して作成したプログラムではありません。現在は症状が相当程度軽減している方や、ひどい症状ではないが腰に不安がある方の予防・防止策としてのプログラムです。
相当程度の症状が現在ある方に必要なのは何らかの治療であり、ストレッチではありません。
改善策または予防策として取り入れる場合、自己の責任において取り組んでください。また、継続するうちに腰痛の症状が悪化する場合には中止してください。
腰痛のストレッチ法 / レッスンの内容
ここから先で12のストレッチ法を掲載しています。
【職場や外出先での方法】・【自宅での方法】の2部構成になっています。
職場や外出先では【職場や外出先での方法】、自宅では【自宅での方法】のみ実践すれば良い訳ではなく、職場や外出先では床に座り込んだり、寝転んだりする事が困難な場合が少なくないため、便宜上2つに大きくカテゴライズしています。
掲載している方法は、どの方法も効果を及ぼす筋肉や靭帯などの軟部組織が違い、それぞれを限定的に行うのではなく、可能な限り万遍なく実践されることをお勧めします。
1ポーズ当たりの継続している時間の目安は、1か月目15秒、2か月目30秒、3か月目以降60秒が目安です。
組織がゆっくり引き伸ばされていることを実感できる【痛・気持ち良い】ところまで筋肉を伸ばすことが必要です。
職場や外出先でのストレッチ法
プログラム 1
スターティングポジション
椅子に座った姿勢で行う、腰背部の筋肉を伸ばす方法です。
肩幅程に両膝を開き、両腕を開いた膝の間に入れます。
アクション
息を吐きながら、上体を膝の間に落としていきます。
プログラム 2
スターティングポジション
椅子に座った姿勢で脚を組みます。
アクション
組み上げた脚の側へ体を捻るように斜め前方に倒していきます。
この手法は【プログラム1】が問題なく行える方が行ってください。
プログラム 3
スターティングポジション
立位で大腰筋というインナーマッスルを伸ばす方法です。この手法は、長時間のデスクワークや車の運転が続いた時にはぜひ行いたい方法です。
自然な状態で壁に両手をつきます。
アクション
息を吐きながら、ゆっくり肘を曲げながら腰を反らせていきます。
このとき、膝が曲げないで行います。
座位が継続すると腹部、側腹部、腰を前側から支える大腰筋などが短縮します。この方法で、それらを伸ばす事ができます。
プログラム 4
スターティングポジション
先ほど同様に壁を利用します。
肘を深めに曲げ壁に背を向けます。
壁と背中を30~40センチとしてください。
アクション
腰を捻って左右に振り向き、壁面に両手をつきます。
そのままの姿勢で、ご自身に合わせた時間保持し、反対側も同様に行います。
プログラム 5
スターティングポジション
片手をデスクや壁などにつき体を支えます。
膝を深く曲げ、空いている手は足首をつかみます。
アクション
つかんだ足首を後ろに引き上げます。
この手法で股関節と太もも前面の筋肉を伸ばすことが出来ます。
プログラム 6
スターティングポジション
膝をつくことが可能な環境での方法です。
片膝を90度に立てます。
もう片方の膝は身体に対して垂直の位置に置きます。
アクション
上体を垂直に保ったまま体を前方に移動させます。
このとき、股関節から太もも前面にかけての筋肉が伸びているのを確認することが必要です。
プログラム 7
スターティングポジション
体を丸め、手で足首をつかみます。
アクション
足首をつかんだまま膝を伸ばしていきます。
このとき、太もも裏面からふくらはぎまでがしっかり伸びていることを確認しながら行ってください。
自宅でのストレッチ法
プログラム 8
スターティングポジション
仰向けに寝て、両膝を抱え込みます。
そして、両膝を胸に引きつけその状態を保持します。
アクション
抱え込んだ膝を解放し両膝頭を付けたまま側方に倒していきます。
このとき、両肩は床から離さないように注意してください。
最大限膝を倒したら、首を膝を倒した方向とは反対に回していきます。
プログラム 9
スターティングポジション
仰向けに寝た状態で膝を立てます。
片方の足首付近を立てている膝の上に乗せます。
アクション
膝を立てていた側の脚を抱え込み胸の方に引き寄せます。
この方法は臀部の痛みや坐骨神経痛に有効度の高い筋伸長法です。
プログラム 10
スターティングポジション
仰向けに寝た姿勢で両膝を立てた状態がスターティングポジションです。
片方の足を持ち上げていきます。
アクション
股関節が90度程度になる位置から膝を伸ばしていきます。
膝をゆっくり伸ばし、太もも裏面が伸ばされていることを確認してください。
プログラム 11
スターティングポジション
床に座り両脚を伸ばした状態がスターティングポジションです。
脚を組むように片側の脚を反対側の膝の外側に持っていき、膝を立てます。
アクション
立てている側の脚の方向に体を捻っていきます。
このとき、反対側の肘で立てている膝を押すようにすると、より効果的です。
プログラム 12
スターティングポジション
足の裏を互いに合わせ、胡坐のように座ります。
足裏を付けたまま足首を手前に引きつけます。
膝が床につくように広げていきます。
アクション
上記の姿勢から上体を前方に倒していきます。
腰痛のストレッチ法 / まとめ
紹介した12のストレッチ法は、『腰痛の症状が軽減している人』を対象としています。現在、日常生活に支障があるほどの症状があるようでしたら、あなたに必要なのはストレッチではなく治療です。
このサイトでは、他にも腰の状態を改善するためのセルフケア法を、数多く紹介しています。それらを参考に、対策を構築してみてください。
それでも改善がみられないようでしたら、何らかの治療を受けることを検討した方が良いと思います。
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