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鍼灸いちご治療院 鍼灸師・八幡太郎 執筆・監修

鍼灸いちご治療院 TEL.03-5876-8989

〒133-0051 東京都江戸川区北小岩6-35-19


痺れ・痒み・痛み メカニズムの違い

痺れ・痒み・痛み 【鍼灸師が執筆・監修】

痺れ・痒み・痛みのイメージ画像痛いのは神経が圧迫されているから。」本当にそうなのでしょうか?

痛み・痺れ・痒みなど、多様な感覚のメカニズムの違いについて解説しています。

このページは以下の項目で構成しています。

鍼灸いちご治療院 院長・鍼灸師 八幡太郎このサイトは鍼灸いちご治療院が運営しています。

記事については医療系国家資格である鍼灸師の八幡太郎が執筆・編集・監修しています。

痺れ(shibire)

冒頭の言葉、「痛いのは神経が圧迫されているから。」治療を受けていてそんな説明を受けた経験はないでしょうか?

神経は圧迫されると痺れが起こりますが、圧迫によって痛みが生じる事は
通常ありません。圧迫によって痛みが起きうるのは特定の条件下においての事になります。

まず痺れが発生するメカニズムについて説明していきます。

神経の種類  働き  太さ 
Aα(エーアルファ)神経  骨格筋を支配  15μm
Aβ(エーベータ)神経  触覚や圧力感知  8μm
Aδ(エーデルタ)神経  痛み・温冷覚  3μm
 C神経  痛み  1μm

神経は、その神経線維の太さが太いものほど圧迫の影響を受けやすく、細い神経は圧迫の影響受けにくい特徴があります。そして、神経も細胞には変わりがありませんから、血液で酸素やエネルギーを補給しています。

正座している女性
正座などの時、まず血管が圧迫され神経細胞はエネルギーの補給を受けられず、電流を流すことが出来なくなります。

このことによって、まず麻痺が起こります。


圧迫の影響は痺れに先行して感覚の麻痺と運動の麻痺という形で現れます。正座の時、膝から下のふくらはぎを触っても感覚がなくなり、立ち上がった時足の甲を持ち上げられないのはこのためです。

次いで痺れが起きます。これは、潰れていた神経線維が元の形に復元しようと周囲からカリウムイオン、ナトリウムイオン、塩素イオンなどを吸収しバランスを取ろうとする事で、通常よりも過剰に電気を発生させるために起きる現象です。

脚の筋肉
骨格筋の運動を支配するAα(エーアルファ)神経は痛みを感じる神経の5〜15倍の太さがあります。

このため圧迫の影響を最も受けやすく、圧迫された時にはまず筋肉の麻痺が起こります。



そして次にAβ(エーベータ)神経が影響を受けるために、触られた感覚や押された感覚がなくなります。

痛みを感じるAδ(エーデルタ)神経やC神経はわずかに1〜3μm(マイクロメートル)しかないため短時間の正座など圧迫刺激では痛みを起こしません。

圧迫によって痛みが起こるのは、長期間に及ぶ圧迫刺激の継続や、神経線維の表面が摩擦などにより傷ついているような条件下で起こってきます。

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痒み(kayumi)


痒みは我々にとって痛みと同様にとても苦痛に感じる感覚です。全身性のひどい痒みでは眠りも妨げられ、気が狂わんばかりの苦痛となります。

痒みは末梢性の痒みと中枢性の痒みに二分されますが、この項目では身近に存在する末梢性の痒みについて解説しています。

痒みのメカニズム

痒みを伝える神経はC神経という神経で、この神経は緊急性のない痛みを伝える神経でもあります。

痒みが発生しているメカニズムについては2説あり、いまだ確定的なことは解かっていません。

1つ目の説は、C神経を刺激する頻度によって痛みとして感じられるか、痒みとして感じられるかの差が生じているのではないかとする説です。

この説は【パターン説】と呼ばれ、高頻度で電気信号が送られると痛みになり、低頻度での電気信号では痒みになるというものです。

痛みと痒みの比較


そして、もう一つの説を【特異的受容器説】と言います。

痒みを伝えている神経は、痛みを伝える神経と同様のC神経である事までは突き止められています。このC神経にはいくつか種類があり、痒みのみを感じる特異的なC神経があるのではないかとする説です。





なぜ他の刺激で痒みが治まるのか?

多くの末梢性の痒みにはヒスタミンが関与しています。細胞から分泌されたヒスタミンをC神経が触知し痒みが発生します。

痒いところを掻く孫の手
痒みの感覚が発生すると意識下・無意識下にも当該部分を掻いてしまいます。
掻く行為により細胞が壊れ更なるヒスタミンの分泌を招き、なお一層痒みが増すという悪循環が訪れます。


乾燥肌で皮膚の表面に潤いが無くなったことでC神経を刺激しているようなら、うるおい成分を保湿剤などで補給する事が第一選択となります。

アレルギー反応でヒスタミンが絡んでいる場合には、抗ヒスタミン剤でヒスタミン分泌を抑制する対処をとる事が多いのではないでしょうか。
抗ヒスタミン剤が手元になく、緊急的に他の手段で代替的に対処する事もあります。

他の代替刺激で痒みを一時的に抑制できるのは、痒みを伝える神経が痛みを伝える神経と同じC神経によるものだからです。

神経線維解剖図
私達の手足などの末梢に発生した痛みや痒みの感覚は、1本の神経線維でダイレクトに脳に送られている訳ではありません。

いくつかのインターチェンジで神経を乗り換えてから情報が脳へ到達しています。


このインターチェンジとして機能するポイントで痛みや痒みを抑制するメカニズムを人体は予め備えています。このメカニズムを下行性抑制系または脊髄後角抑制系と呼びます。

末梢から入ってきた情報は脊髄で神経を切り替えるのですが、神経を切り替えるインターチェンジである脊髄は、入ってきた感覚情報をすべて脳へ送信している訳ではありません。

脊髄には情報を選択するゲートがあり、神経線維が太く情報伝達速度が速い神経から入ってきた情報を優先し、神経線維が細く情報伝達速度が遅い神経からの情報を抑制する特徴があります。。

つまり、Aβ(エーベータ)神経からの触覚や圧力刺激の情報や、Aδ(エーデルタ)神経からの熱刺激や冷刺激を情報として受け取ると、C神経からの情報をブロックしてしまいます。

これはAβ神経やAδ神経が、C神経の数倍の太さと伝達速度があるための現象です。脊髄で行われる、情報を選択的に伝え一部の情報をブロックする働きをゲートコントロール・メカニズムと呼びます。

氷の画像
痒いところに熱めのお湯をかけたり、氷などで冷やして痒みを鎮める行為はこのゲートコントロール・メカニズムを働かせているわけです。





他、痒みのある部位をパシパシ平手で叩いて一時的に痒みを抑えるのもゲートコントロール・メカニズムを無意識下で行っているわけです。皮膚表面のAδ(エーデルタ)神経は鋭い痛みを伝える神経で、鈍い痛みや痒みを伝えるC神経よりもAδ神経の情報が優先されるためです。

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熱さと痛み・冷たさと痛み


前項で痛みや痒みが、熱刺激や冷刺激で抑制される事に触れましたが、関連する情報として【熱さと痛み】、【冷たさと痛み】についても少し説明します。

温度計
熱さや冷たさを伝える神経は、鋭い痛みを伝える神経と同じ神経が担当しています。

Aδ(エーデルタ)神経と呼ばれる神経がそれに当たります。



結論を先に言うと、43度以上の熱刺激と17度以下の冷刺激を人体は痛みとして感じるようにセンサーが働きます。

人は体温が43度を上回るとタンパク質が変性しだすため生命を維持できなくなります。また体温が20度を下回ると死に至る可能性が高くなります。

それを防ぐため、体温が一定の幅を超えるきっかけとなる熱刺激や冷刺激を受けると、痛みの感覚として警告信号を発していると考えられます。

サウナに入っている男性
人体は気体の温度に対する耐性と水温に対する耐性に違いがあり、例えば50度を超えるお湯の中に手足を入れると、熱いと感じるよりも痛いと感じ耐えられませんが、100度を超えるサウナの中では10分程度でしたら耐えられます。


これは冷刺激でも同様で、気温0度の空間に裸で20分程度滞在しても通常なら死に至ることはありませんが、水温0度の水に浸かった場合20分浸かっていたら死の確率が高くなります。

これは気体よりも液体の方が熱伝導率が高いためです。また気体よりも液体の方が持っている熱容量が大きいため、熱いお湯や冷たい水の中の方が身体が受ける負担が大きくなります。

人間は、体温が28度を下回ると心室細動が起こり昏睡状態に陥り、20度以下の体温となると死亡する確率が高くなります。ちなみに、人間の血液は−18度で完全に氷結します。

他、高温環境下で人体が耐えられる限界ではアメリカ空軍が行った実験があり、裸の状態で乾燥した空気の中でなら204度の高温まで耐えた記録があるそうです。

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味覚と痛み


味覚は口腔内、特に舌で最も感じられる特異的な感覚ですが、味覚は痛みとも結びつく要素を持っています。


味覚障害と舌痛症

口の中の画像
味覚障害という病気があります。中年以降の女性に好発し、口の中に味を感じさせるものがないのに常時苦みや渋みを感じたり、食べ物の味を薄く感じたり、甘味だけを感じなくなったり全く味が分からなくなる状態です。

発症の原因となるのは唾液分泌の減少や、入れ歯などの歯科治療による材料金属のイオン化によるもの、内服薬の影響、口腔内細菌のバランスが崩れた事によるものなど多岐に及びます。

味覚障害の原因として最も多いのが体内の亜鉛が不足することです。食生活の偏りや薬の影響で亜鉛が不足すると味覚障害が起きやすくなります。味覚障害では亜鉛製剤を内服すると70%以上の人が改善すると言われます。

この味覚障害を持つ人の中には、舌に痛みを発症する舌痛症と呼ばれる疾患に発展する人も存在します。下の先や辺縁部がピリピリしたり、ひどい人では電撃様の痛みが起こる事もあるそうです。

原因ははっきり分かっておらず、心因性、ホルモンバランスの崩れ、カンジタ菌の増殖などが示唆されていますが、特定の原因はつかめていません。他、舌が痛みを発症する原疾患としてはドライマウスなどもあります。


何らかの原因で舌に痛みがある人は推定20万人とも40万人とも言われますが、正確な数字はつかめていません。自分の周りに1人はいるという程は
存在せず、数百人に一人くらいの発症率と推定されます。



身近に存在する味覚と痛み

唐辛子
特別な疾患は別にして、身近に感じる味覚とつながる痛みには、唐辛子と痛みの関連があります。
私達が唐辛子を食べたときに感じる【ピリッ】とした味覚は、身体は味覚ではなく痛みとして感じています。

唐辛子に含まれるカプサイシン類を感知するセンサーが痛みを感じる神経に存在します。このセンサーはTRPV1(トリップブイワン)と呼ばれます。TRPV1は灼熱痛を感じ取るセンサーで、唐辛子のカプサイシンにも反応します。

近年、唐辛子と痛みの研究から、灼熱痛を抑制する薬剤の開発につながる
発見がなされています。

唐辛子に含まれるカプサイシンはTRPV1というセンサーを活性化し痛みを引き起こしますが、この時同時にアノクタミン1と呼ばれるセンサーも活性化している事が解かりました。

TRPV1レセプターの活性化を抑制しようとしなくても、アノクタミン1レセプターの働きを抑制すれば結果的にTRPV1の働きが抑制され、鎮痛につながる事が解かってきました。

味覚と痛みの研究が、身体部に生じる難治性の灼熱痛を抑制する治療薬開発に繋がるかもしれません。

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